副業に関わるいくつかの視点

モデル就業規則にも

これまで就業規則でほぼ一律に「禁止」とされていた「副業」がようやく見直されつつあります。
厚生労働省のモデル就業規則でも一章を割いて副業・兼業に関する記載が設けられるくらいの変化です(きっと数年もすれば当たり前なんでしょうけれど)。

兼業と言われれば、特に農業では「三ちゃん農業」とか「兼業農家」という言葉があるように、会社勤めをしながら農業もやっているという方は少なくなかったのではないでしょうか? 筆者が子どものころは、本当にそうしたご家庭が多く(それだけ田舎だったとも言えますが)、土曜日曜日に田植えだとか稲刈りをするので、子どもたちもそこにかり出されるのでそうした時期には遊べない(あるいは学校が休み)ということもあったりしました。また、それから十数年して人事制度構築のご支援をするようになったころでも、「農繁期が会社の繁忙期と重なると大変だから、生産計画も考えなくては」というお客様がいらしたのを思い出します。

組織にとってのメリット

ところで、この副業、そのメリットが語られる際には、「いわゆる越境学習としての機能もあり、社員の成長だけでなく、自社業務の質の向上やブレークスルーにも役立つ」とか、「プロボノ活動を促進することは、会社にとっても社会貢献に寄与することになる」といったように、社員が在籍する組織にもたらすものが少なくないという視点が強調されるように思います。
社員が副業、兼業することは、会社にとってみれば、「本来であれば休んで自社の業務に備えるはずの時間なのに別のことに励まなくても良いではないか」だとか、「自社のノウハウや知見が漏出することになりかねない」-という懸念を持つ人は少なくありません。こうした懸念に答えるというスタンスからの副業、兼業の意義を説明することが多いので、先のような内容になるのだと思います。

働き手の主体性の回復

これはこれで、その通りなのですが、働き手にとってはどうでしょう。もちろん、越境学習の効果をえることはできますし、自分の持つ知見や専門性を活かせる充実感を感じることもできます。
そしてもう一つ、新たな収益源を持つことができるということも大きな要素と言えます。「勤めている会社だっていつまであるかどうか分からない。何かあったときに食いっぱぐれることがないように」というある種の安心感を副業・兼業はもたらすであろうことは期待できます。ただ、もう一歩踏み込んで考えておきたいのは、「自分が持つ【時間】という資源を何に投下するのかを決められる」ということも大きな変化であるという点です。これまでは、というか高度成長期までは会社に勤めることすなわち自分の時間をすべて会社に投じてしまうこと、という風潮がありました。よく引用される「24時間働けますか」というキャッチフレーズにしても働く先は一つだったわけです。ところが副業を視野に入れると、どのくらいの時間をどちらに投下するかを自分で考えることもできるようになります。労働者は自分の労働力を資本家に提供することで賃金を得るわけですが、これまでは売り渡し先は1つにしか決められず、しかもいったん決めると(特に日本の場合は)「長期雇用」を暗黙の前提とするので、その後の修正はしづらかったので、労働の質が変わっても条件の変更はなかなか難しかったと言えるのではないでしょうか? 副業・兼業を視野に入れると、この売り渡し先が複数になり、そのウエートも変えることができるようになるので、「決定権」が労働者サイドに取り戻せる-と考えることもできます(着想は「100de名著 カール・マルクス資本論」=斎藤幸平=から得ています)。このように考えると、副業・兼業が改めてクローズアップされることは、とりもなおさず働き手の自己決定性、自主性がクローズアップされているとも言えるでしょう。キャリア開発支援者にはそういう視点も必要ではないかと思います。

良い意味での緊張関係

一方、「なんだ、そういうややこしい人が増えるなら、やはりうちの会社のことだけを考えてくれていた方がいいから、副業・兼業は止めておこう」と経営サイドで考えるのは早計です。冒頭で取り上げたように、副業・兼業がもたらすメリットは少なくありません。また、「この会社しかありません」といって頼ってくれるのはありがたい話ではありますが、それも過ぎると「ぶら下がり」ということにもなってしまいます。個人と組織、この関係には適切な緊張は欠かせません。副業・兼業はそのことに改めて目を向けるものでもあろうかと思います。

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