Q:「ワーク・ライフ・バランスとキャリア開発は密接な関係があるといわれますが、どのように関係するのでしょうか? キャリアというよりは現状の育児支援、介護支援の問題ではないでしょうか?」


<こたえ>

<こたえ>
 ワークライフバランスを仕事と、私生活を含むそれ以外の時間のバランスと考えるとうまく行きません。なぜならそれらは別々に考えられるものではなく、また対立させて考えるべきものでもないからです。多くのワークライフバランス施策がうまく行かなくなってしまうのは、この対立軸で捉えるからです。対立軸で捉えるから「仕事中心派」と「私生活中心派」との対立を生んでしまうのです。
 もともとこれらは分けられるものではありません。端的にいえば、家庭にいても頭の中が仕事でいっぱいだったり、職場にいても家のことが心配で仕事が手につかなかったりしていることがあるように、それほどはっきり分けられるものではないのです。むしろ分けられないところに難しさがあるのです。
 ワークライフバランスは「Working Life(仕事人生)」と「Total Life(全人生)」とのバランスなのであり、それは今この時点の時間の兼ね合いだけではなく、長い時間軸の中で、そのときの状態に合わせてウエート配分を適切にかえられることなのです。そう考えると、今は独身で自由なる時間はたくさんあるという人にとっても、子供や介護する人を抱えている人にとっても、大きく関係します。その人にとっての最適のバランスがあるからです。ワークライフバランスが実現すべきなのは、一人一人が働きやすい、生きていきやすいバランスの実現なのです。もはや関係のない人というのはいないことになります。誰もが当事者なのです。

 一人一人が働きやすい、生きていきやすいバランスの実現と表現しました。これを実現するためには、育児/介護休業をとりやすくするなどの方策は必要なのですが、それ以前にやっておかないといけないことがあります。それは、当事者、つまり本人はどのような支援が必要なのかということです。夫婦で育児休業が必要な人もいる一方で、むしろ夫が育児をするから妻には働き続けて欲しいという人もいるでしょう。このようにその人ごとにどうしたいのかがはっきりしていないと支援のしようがないのです。つまり、その人自身が自分の仕事人生と全人生をどうしていきたいのかを考えておいてもらう必要があるのです。つまり、自分のキャリアを考えておくということです。ワークライフバランスとはキャリア開発そのものなのです。

 ワークライフバランスもキャリア開発も一人一人に注目することがその基本となりますが、このことはダイバーシティにもつながります。ダイバーシティは国籍や性別、宗教などの面でのマイノリティに焦点が当たりがちですが、基本は一人一人の違いを大切にするということです。一人一人全く異なる存在であるという立場に立つならば、誰もがマイノリティなのですから。
 そうした一人一人の違いを大切にしながらも共通の目的の達成のために力を合わせていく。それがインクリュージョンです。みんな同じなのではなく、ある一定の目的のために力を合わせる。同意を強いるのではなく、合意の元に進めていく。そんな組織、社会を実現したいものです。当然その基本は「個立した個人」にあります。