内的キャリアとは何か?

キャリアを捉える2つの視点、視座

 キャリアを考える上で留意しておきたいのは、「外的キャリア」と「内的キャリア」の二つの視点、視座から考えるということです。

 では、内的キャリアとは何でしょうか?
 簡単にいうと「働くこと、生きることに対する価値観」であり「働くこと、生きることに求める意味、意義」ともいえます。
 もっと言葉を絞っていうならば、働きがいであり生きがいです。
 これにたいして、どんな仕事をしているのか、その仕事の名前や内容が「外的キャリア」に当たります。
 
 たとえていうならば「外的キャリア」とは衣装であり、「内的キャリア」はそれに対する好みであり、そこに込める意味といえます(内的キャリアについては「キャリア開発/キャリア・カウンセリング」(生産性出版)でさらに詳しく説明しています)

 なぜ外的キャリアだけでなく内的キャリアについても考える必要があるのでしょうか?
 同じ職場で同じように仕事をしていても、楽しそうに充実感を感じながら働いている人もいれば、辛くて辛くて機会さえあればやめたいと感じながら働いている人もいるでしょう。
 このことは仕事の違いだけでは説明できません。その仕事及び環境に対して意味や意義を感じているかいないか、感じられるか感じられないかの違いです。つまり、その人がどう捉えているか、その人の内的な価値観、内的キャリアの問題といえます。

 キャリア開発を勧めていく上で、自己理解が基本となりますが、この時にどのような知識や経験を持っているか、なにができるか、どんな資格を持っているかということだけでなく、「どのようなことに働きがいを感じるか」「働く上でのモティベーションの源は何か」「生きていく上で働くということをどのように捉えているか」「そもそもどのようなことに生きがいを感じるのか」「どのような人生を送りたいと思っているのか」といった生きること、働くことに対する意味や意義をどう捉えているかについても考えておきたいものです。

内的キャリアは変わることがある

 働く上で、生きていく上での価値、意義が内的キャリアと説明しました。
 では、内的キャリアはどのように形づくられていくのでしょうか?

 小さな子供たちに「将来何になりたい?」と聞くと、「おまわりさん」「大工さん」「宇宙飛行士」「お花屋さん」「ケーキ屋さん」「先生」などなど、さまざまな答えが返ってきます。そして、「どうして?」と尋ねると「かっこいいから」とか「かわいいから」とかなにがしかの理由を話します。
 実際ににやったことはないのですから、どのような働き方をするのか、本当のところどのように面白いのかはやってみないと分からないと思います。お父さん、お母さんの様子を見ていっている子もいるでしょうし、これまでの体験の中からこたえているのでしょう。それでも、子供たちはどのようなことに関心を持っているのか、それはなぜなのかを垣間見ることができます。
 これらは内的キャリアの萌芽といって良いのではないでしょうか。

 そうして大きくなっていく過程でさまざまなことを学び、また自分が実際に出来ることと出来ないことを知り、また興味関心の対象も変化したり分化したりしていくうちに、つまり内的キャリアが、それと意識していないうちに変化し、それに合わせてなりたい仕事、つまり外的キャリアも変化していると考えることができます。

 この変化は就職してからも続きます。
 なにせ、実際に仕事をしてみないことには分からないものというものがあります。
 それまでは興味を持っていなかったので目も向けなかっただけで、やってみると面白かったということは少なくありません。その意味では、自分なりに確信を持つまで内的キャリアは変わり続けるといえるでしょう。

なぜ内的キャリアに注目するのか?

内的キャリア自覚の深まりは、外的キャリアの選択肢を拡げる

 内的キャリアに関する自己理解の深まりは、外的キャリアの選択の幅を広げます。
 例えば、「教師になりたかったが教員試験に落ちてしまった。もうだめだ」という学生に、そもそも教師になりたかった理由や、なぜそのように考えるに至ったか、その仕事にどのような意味を感じていたのかという内的キャリアの側面を尋ねていくことで、例えば「何か新しいことを知ったりできるようになったときの人の輝いたような笑顔が好きだから」ということが分かったりします。
 何かを知った、何かができるようになったとき、つまり人の成長の瞬間に立ち会えるということが大切なのであれば、教師という職業はその内的キャリアを実感する機会の多い職業です。
 しかし、その瞬間に立ち会えるのは、教師だけではありません。場面に着目すれば学校以外、例えば幼児教室や塾などでもその機会は得られます。また対象に注目すれば子供たちだけでなく、大人にだって成長する場面はあります。それらを考えていけば、外的キャリアは教師だけではないことに気付き、新たな選択肢を増やすことができるようになります。

一隅を照らす

 また、自分の内的キャリアについての理解が深まるということは、仕事を楽しむコツをつかむということでもあります。
 どんなときに満足感を得られるのか、何に意味を感じるのかが分かっているということは、今やっている仕事を通じてそのような結果が得られるように工夫すればよいということになるのです。
 たとえばお客様からのフィードバックがあって、自分が役に立った実感が得られることにやりがい、働きがいを感じていたのに、社内業務に異動になってお客様と接する機会がなくなってしまったという場合でも、自分が関わったことについてのフィードバックが得られることが重要なのだと分かれば、相手が社外のお客様である必要はないわけで、社内の関与先との関係を工夫して反応が得られるようにすれば、やりがいを感じるようにできるかもしれません。

 特に組織で仕事をしていると、自分が思うような職務に就けるとは限りませんし、またつけたとしてもずっとそれをやり続けられるかどうか分かりません。さらに、そこに固執し過ぎることが長い目で見たときに本人にとってキャリアの選択肢を狭めるという意味でマイナス要因となることもあります。異動というのは避けられないし、避けない方がよいこともあります。
 この時、自分の内的キャリアが分かっていれば、異動先での身の処し方も分かってくるのです。
 一隅を照らすという言葉があります。
 そこにいても自分らしく仕事をし、自分の役割を全うするという意味でも内的キャリア自覚は重要なのです。